ハイになる前に

「心ならもう決まってる 僕の前を僕の影が征く」

名札に入れた夢

最近の小学生の名札は、防犯上の観点からひっくり返せる仕様になってるとか、そもそも登下校時につけさせないとか、いろいろあるようで
まあそれも仕方ない、様々な要因から子どもを守る方法も多様化してきているということで

ところで、団塊ジュニア世代のわしの小学生時代は当然、名札はバリバリの安全ピン装着、年がら年中針が刺さっている服の左胸はみんな穴だらけであった
子どもを狙った犯罪も当然あったが、名札によって犯罪者に名前が知れるかも、みたいなことはそれほど問題視されてはいなかった(都会のことは知らないが※当方宮崎育ち)
なので子どもたちは全員、のんきに名札をぶら下げて登下校していた
名札を忘れた日はなんとなく左胸がスースーするような錯覚まで起こすほど
(ちなみに名札忘れは忘れ物の中でもちょっと重い「忘れ物」だった
体操服や給食着忘れは、それがないと授業参加や大事な役目が果たせなくなる重さがあったが、名札忘れは別にそれを使って何かをするわけではないのに、体操服や給食着を忘れたのよりも強い罪悪感があった
なんというか、人としてなってない!みたいな雰囲気…?わしだけかもしれんけど)


そんな名札に、小学生だった我々は実にいろいろなものを入れた
学校名が印字または縫い取りされた紙や布の名札が、柔らかいビニール製の入れ物に入っているわけであるが、その紙や布以外に、ものを入れるのが鬼流行っていたのである
何を入れるかは、地域学年によりいろいろあろうが、わしの小学生時代に席巻していた代表的「名札に入れるもの」を思い出した

◯匂い玉(香り玉)*1

だいたいこんな感じの瓶入りだった

名札に入れるものNO.1といえばこれ(なのか?)
よくあるのは、直径2〜3mmくらい、表面はすりガラスのようで、材質はゴム?樹脂?よく分からないが、楕円形で半透明の小さな粒で、いろいろな香りを放つ不思議なブツだった
なんか、ファンシーショップ*2とかで、小さな小瓶とか、細長いシャー芯入れくらいの入れ物に入ってたような記憶
我々の頃はもっぱらフルーツの香りやら花の香り、色もとりどり、それらを好きなように名札に入れ込んだ
入れすぎて名札が丸く膨らみ、何かの拍子にボロボロボローっとこぼれてしまう人もいた
見かけない色のものを入れている人がいると、どんな香りがするのか気になったりした
また、見たことのない色や香りのものがないか、文字通り鼻を利かせながら店頭をうろついたものである

そんなある時、わしは親に一風変わった匂い玉を買ってもらった
それはいわゆるファンシーショップではない店で売られていて、布の袋がついていた
開くと、よくある半透明のゴムっぽいすりガラス風ではなく、粉っぽいというか、ちょっとラムネのように見える粒だった

巾着の高級感…

匂いはそんじょそこらのものではかいだことのないような、えも言われぬ清々しい花の香り、確か風情のある香りの名前までついていた気がする
これは…!!!とテンションダダ上がり、直接名札に入れると溶けてしまいそうな気がしたので(なんせ粉っぽいもんで)、布の袋ごと名札にぶら下げるという荒業に出た
きっと「わ〜!見せて見せて」「うわ〜いい匂い〜!!」と大反響となるに違いない、とほくそ笑んで登校したが、クラスメイトはまるっきり無反応であった
粒が見えてないので当然だった…と思い直し、休み時間に数粒出して改めて名札に投入してみたものの、やはり誰にも気づかれない
この頃には匂い玉が流行りすぎて、みんな何かしら名札に入れていていちいち見なくなっていたし、自分から言わなければ気付かれもしないわけで、コミュ障気味のわしはそんな話題を友達にふっかける度胸もなく、前日MAXまで上がっていたテンションは大空振りに終わったのであった

そしてちょうどその日くらいから、匂い玉そのものの流行がやや廃れていった
わしの変則匂い玉導入は、時期を逸したわけである
しかしわしはその後も後生大事にその匂い玉を身に着け続け(諦めが悪い)、時々開いて香りをかいでうっとりした
この匂い玉には罪はない…みたいな気持ちだったような、気がする

◯アルファベットマカロニ

これは、わしは名札に入れたことがない
ないが、猛烈に憧れていた
確か、上級生の流行が我々の学年に降りてきた、ような記憶
ちょっとカッコいい、スポーツできる、ショートカットが眩しい上級生のお姉さん、なんかが、我々よりちょっと年季の入った名札に入れていた
そして我々の学年でも、特別な人しか入れてなかったような気がする
この特別とは、クラスのカースト上位とか、お姉さんがいるとか、何か特殊な流通ルート(マカロニの…)に顔が利くタイプの人、である

このアルファベットマカロニは、そもそもどこで売られているのかさっぱり分からなかった
スーパーにあるのは、普通の筒状のもの、ねじれたもの、蝶々みたいなの、貝殻みたいなの、車輪みたいなの…
それらとは大きさがまるで違う、なんせ名札に入るサイズなので、3mm×6mmくらい
そして匂い玉みたいに欲張っていろいろは入れず、せいぜい2〜3文字分である
入れられたアルファベットが、その人のイニシャルではない場合、
(もしや、好きな人の…!!!)
とハッとさせられたりする、罪なブツである

宮崎の小学生だったわしには、この粋なアイテムを手に入れる手段がなく、やがて
(アレ、うっかり間違って名札を洗濯したら、ふやけてしまうっちゃなかろか…)
と酸っぱいブドウ理論まで持ち出して執着を断ち切り、なんとかやり過ごした
そのうちアルファベットマカロニを入れている人も見かけなくなったが、後にも先にも、マカロニにこれほど憧れた時期はないと思う

スポーツできる感
実際の宮崎の小学生はみんなこげこげに日焼けしていた

◯スパンコール

スパンコール、わしは未だに憧れがある
この年になっても、机の上にばらまかれたスパンコールの山なんか見たら、ウッ、と胸が締め付けられるような感覚に襲われる(そもそもわしは幼少のみぎりよりキラキラしたものに目がないクチで、スパンコールへの執着もその一環である)

クラス中、目新しいものを見つけるとこぞって手に入れ、それはたいてい袋にザラッと50枚程度ずつ入って売られているので、みんなで交換したりしていた
最初は丸くて六角形の型がついた、一番オーソドックスなものを入れていたが、やがて星型が流行り、続いて花の形、やがて動物の形のものが出始め、わしはトナカイがぴょーんと飛び跳ねる形のものを手に入れた時の感動を未だに覚えている

スパンコールいろいろ

色もとりどり、星型の頃は金銀に単色、大小取り混ぜて色々入れたものだが、やがて大きさは1cm前後のものに落ち着き、虹色のものなどが出てきて、みんな色めき立って集めては名札に入れた

そしてわしは究極のスパンコールを入手した
ミルキーな地色にオーロラ感あふれる光沢が施された贅沢な色で、形はなんとその「トナカイがぴょーん」なのである!!!!
君に、君に出会うために生きてきたよ…!!!とばかりに、これまで我がコレクションの最高位だった赤いトナカイから、そのオーロラミルキートナカイに入れ替えた時の、震えが来るほどの興奮たるや!!!*3

こうして意気揚々と名札にミルキートナカイを掲げて登校したわけであるが、確かクリスマスが終わった頃には、形そのものが時代に乗り遅れているような気がして、当初の熱狂はスン…としぼんでいったような記憶がある…(クリスマスが済んだ途端、トナカイにもツリーにもサンタにも赤と緑にも興味が失せるアレ、この当時からあったっぽい)

降臨…!!!
神鹿かのような勢いで崇め奉っていた

*

記憶に強く残っているものを挙げたが、これ以外にも、紙石鹸とかシールとか、水のりを着色した謎の物体なんかを貼り付ける、なんかもあった気がする

あの頃、躍起になって名札に入れたものは夢と憧れ
これらは大人にはわからない、強烈な「カワイイ!!!」「イケてる!!!」の塊だった
それを調達して名札に入れ込んだ時、それをつけた自分までなんだかグレードアップしたような気分になった

なぜ「名札に匂い玉やスパンコールを入れるとグレードアップ」するのか?
モテたいとかでもなければ(別に匂い玉やスパンコールでモテはしない)、何かのおまじないというわけでもない(Oh My Birthday…)

不思議なことに、自分自身のことなのに、その論理的な繋がりがわからない
大人になったわしには、あの頃のわしの気持ちはもはやわからないのである

でも、その時々で猛烈にテンションが上がり、生まれ変わったような気持ちになった記憶だけは残っている
多分、メイクをしたり、髪型を変えたり、新しい服や靴、アクセサリーを身に着けた時の高揚と同種のものであろう
とはいえ、当時だって、新しい髪型や服やアクセサリーに興奮することはあったわけで、こうした高揚が匂い玉やスパンコールでも発動するのはもう、小学生特有の現象なのかもしれない*4

とはいえ…
こういう不思議なときめきの記憶はいつもキラキラしていて、ある種の酩酊をくれる
時々ふところからそっと取り出して、光にかざして眺めてはまたしまい込む、ガラス玉のようなものだ
みんなそんなものを持っている、これはその中の、ひとつである
もう戻らなくてもいい日々の産物だけど、自分の中で確かに、ただの石が時を重ねて宝石になっているのである

 

ゆめ

*1:「においだま」だとノドにできるという別のモノが思い浮かぶ向きもおありでしょうが、現在は香り玉と言われているものを指して当時の我々は匂い玉と呼んでいて、匂い玉と書いております悪しからず…

*2:見るだけで目に炎が宿り物欲が爆発する魔窟

*3:この、ミルキーっぽい色が珍重される傾向は、ビー玉の色のヒエラルキーと近い気がする、もちろん地域差年代差はあろうが

*4:というか、デコの精神?なのか…?今わし自身があまりデコに興味がないから分からんだけで、デコり感覚がある人には当然の現象なのかもしれない…