ハイになる前に

「心ならもう決まってる 僕の前を僕の影が征く」

【夏休みのとも・4】テレビその2

おばあちゃん家で過ごす夏休みの、朝。

子供の頃から朝寝坊、おかあさんといっしょとかポンキッキとか、全く見れない生活だった私が、夏休みだけ早起きするわけがなかった。
いつもたいてい、おばあちゃんに

「いつまで寝とるとねー!!」

と大声で叩き起こされる。
まぶたの開かんごつなるばい、昼になるばい、早よ朝ごはんば食べんね、いろんなパターンの呼びかけがあったが、相当何度も叫ばれてからようやく起きるのが常だった。*1

顔を洗って身支度したら、いつもの、パンとサラダの朝食。
パンよりご飯が好きだった私は、毎日毎日同じものが出てくるおばあちゃんの朝食にはいい加減飽き飽きしていた。
しかも「体にいいから」と言って、野菜の上にドバドバとリンゴ酢をかけられてしまう。
酸っぱいのが苦手な私はほとほと辟易していたのだが、実は今現在の私が作る朝食は、完全にこの朝食と同じ、しかもリンゴ酢もかけまくりである。
これでないと朝ごはんという感じがしない。刷り込みというのはすごい。*2

* 

朝食が終わったら、さっそく新聞を開く。
(いや、朝食の前に開いてたかな……)

いつも楽しみだったのは、朝の10時とか、15時〜16時くらいにやってる再放送ドラマ。
生まれる前の時代劇とか、見たことある俳優が全員異様に若いとか、古い番組が多かった。

中でも夢中になったのが、名作・マチャアキ西遊記
リアルタイムでは私もさすがにまだ小さかったが、奇想天外な内容と映像で大好きな番組だった。
本放送は週1回の夜放映だったのが、夏休みの再放送は平日毎日やっている。
しかも、なぜかあの頃のFBSはとにかくしょっちゅう西遊記の再放送をやっていた。
パート1・2を問わず、長期休暇で私がおばあちゃん家に滞在している時期、常に再放送していたような印象がある。*3

悟空、悟浄、八戒の笑えるやり取り、ファンタジックな特撮やロマンあふれる中国風のセット、軽快でイメージにピッタリなゴダイゴの劇伴、そして夏目雅子の息を呑むほどの美しさ……
そんな見どころの中でも、特に注目していたのは、女性キャラの衣装だった。

あのドラマの女性の衣装はかなり手が込んでいて、中華風の天女のようなデザインに、たいていは生地に光るスパンコールが散りばめられていた。
テレビ画面で見るだけでは、生地がどうなっているのか全く分からない。
ただ身動きするのに合わせてキラキラと輝き、そのまばゆさに夢中になった。

美しい衣装の人が登場すると、慌てておばあちゃん家の電話の横のメモスタンドをひっつかんで、急いでスケッチする。
でも子供の画力ではとても、ドラマ中の女性の衣装を完璧にメモるのは無理で、いつも途中で諦めざるを得なかった。

フィギュアスケートの衣装も、当時からスパンコールが多用されていて、見ているだけで同じようにときめいたが、思わずメモまでしてしまうのは、断然西遊記の女性の衣装の方だった。

西遊記を見終わると、途中まで描いた中華風衣装の女性の絵がいくつもできた。

 

当時はせいぜい上半身くらいまでしか描けなかった

 

夕方は、宮崎では放映されていないアニメの放送がお楽しみ。
小4の頃、福岡で初めて見ていっぺんに虜になったのが「魔法の天使クリィミーマミ」。
主人公の優ちゃんが、自分と同い年で、家がクレープ屋をやっていて、当時流行っていたパーカーを着ている、全方位が隙のないたまらなさ。
夏休みが終わって宮崎に帰る時、マミが見れなくなるのが本当に本当に、歯ぎしりするほど辛かった(宮崎の友だちと共有したくても、誰も見たことないわけで……)。
マミの放送は1年間あったので、その後の冬休み春休みにもおばあちゃん家で見れたのはありがたかったが、それにしても民放の少ない宮崎の放送事情をあれほど恨みに思ったこともなかったように思う。

そして宮崎に帰ってからのある日、近所の店で見かけたアニメ雑誌の表紙が、華麗な高田明美御大のマミのイラストで、飛び上がる思いで購入した。
それで初めて、アニメというのはキャラクターデザインという人がいることを知った。
マミのキャラデザは、すでに大ファンだったうる星やつらと同じ高田明美という人がやっていて、それもどハマリの一因だったわけである。*4

6年生の頃には、確かOVAの発売記念か何かのイラストキャンペーンに応募して2位になり、一人で福岡市内までバスで出て、授賞式に行ったりもした。
細かいことは忘れてしまったけど、その体験も私にとってはとても貴重なものだった。
今その絵を見ると、まだまだ幼いとはいえ、これを描いた頃の自分が、どれほどマミを愛していたかが、なんとなく伝わってくるような気がする。
そういう思い入れというのは、絵にも乗っかるもんなんだなあと、つくづく思う。

西遊記クリィミーマミは、私の中で祖母の家の景色と強烈に結びついている。
居間のテレビが空いてなければ、祖父母の寝室に回り、ベッドに寝転んで西遊記を見た思い出。
夕方、ご飯の支度のお手伝いをしないといけないのに、ついつい居間のテレビの前に戻っては、ブラウン管の向こうに広がるクリィミーマミの魔法の世界に没入した思い出。
祖父母の寝室のカーテンの柄、斜めに差してくる強烈な西日、暗い居間に一つだけ明るいテレビ、台所から漂ってくる野菜の煮える匂い。

私にとって、空想世界の広がりや憧れ、夢に没頭する感覚を養ってくれた作品たち。
夏休みにおばあちゃん家に行く習慣がなかったら、出会うことも、こうして今に至るまで深く親しみ続けることもなかったかもしれない。
この二作品は、あの頃の私が、確かに今の私と繋がっていることを実感させてくれる作品でもある。

 *

 

高峰三枝子にお釈迦様演ってもらおうとか、どうやったら思いつくの……?

高峰三枝子のお釈迦様はちょっとウチのおばあちゃんに似ている(髪型)。
三蔵の夏目雅子と同じくらいかさらに上を行く素晴らしいキャスティング。

 

小5の誕生日に買ってもらった60色のクーピーで描いた

小6の時2位になった絵。懐かしのクーピーペンシル着色。

 

*1:ラジオ体操?なんのことでしょう?

*2:ちなみに母も朝は熱烈にパン派の人で、まるっきりこれ系の朝食を作る(お酢はかけないけど)。米粒好きな私は切ない思いをしたが、自分が作る身になってみたら、圧倒的にパン、楽。パン派かどうかより、楽かどうかが重要だったかもしれない

*3:ある時期からパタリとやらなくなった。担当者が変わったのかもしれない…

*4:クリィミーマミはその後、ずいぶん遅れて宮崎でも放映が始まった